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匂いの話をされても困る

ひと月ほど前、仕事から帰ってきて家でだらだらしていたら携帯に母から電話がかかってきた。

母からそう頻繁に電話がかかってくることはないし、なにしろ夜中の12時だ。

「もしや、なにか大変なことでも起こったのか…?!」

ちょっとドキドキしながら電話に出た。

「なんかここ最近、おとうさんの息が臭いのよ。うんこみたいな匂いがして…」

一緒に飯を食っていると親父の息からうんこ臭が漂ってくるおかげで、一気に食欲が失せて困っているらしい。

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親父に歯はない。数年前から総入れ歯だ。そもそも歯があったころから親父が歯磨きをしているのをまともに見た記憶がなく、そのせいか、歯槽膿漏を長年患い、いよいよそれがひどくなった結果、比較的若い頃に総入れ歯になってしまったのだ。

そんなお口の衛生面に無頓着な人間だから入れ歯の手入れもほとんどしていないらしいし、リステリン的なモノで口をゆすいだりなんてこともしているはずがない。おまけに親父はタバコと缶コーヒーが大好きな人間である。

ある日、隙を見て母が親父の口の中を覗いてみたところ舌が真っ黄色だったという。

おそらくこれが「うんこ臭」の原因ではないか。

母はそう訝っているらしく、ドラッグストアで舌磨き用の器具を購入し「舌が真っ黄色だよ」と言って父に渡したらしいが、頑として磨かないという。

「お願いだから磨いて! つーかうんこくせえんだよ!」

とは言えないらしい。

「怒っちゃうから」

とのことだ。

癇癪持ちで人の意見を訊かない親父なので、その光景は容易に想像できる。

たしかに息からうんこの匂いがするのはおおごとだ。夕食の献立がカレーだった場合、カレーを食ってんだかうんこを食ってんだか、混乱してしまうのではないか。

母には同情を禁じえない。

えないが、だからってそんな話を訊かされて私はどうしたらいいのだろうか。

2日前、兄から夜中に電話がかかってきた。

やはり兄にしてもそう滅多に私に電話をかけてくることはない。

「なんかあったのか…?!」

ドキドキしながら電話に出た。

これはかなり真面目な話だった。兄が滅多にしてこない真面目な話をしてきたので、私も真面目に話をした。

真面目な話をひとしきり話し終えたそのときだ。兄が言った。

「おまえって女の身体のどこが好き?」

いきなりなんなんだ。

「うーんと……ケツかな」

とりあえず私はそう答えた。まあ、無難な答えだがほんとうに好きなんだから仕方がない。

「ケツかあ。俺はな、ケツの穴の匂いが好きなんだよ」

なるほど。いろんな性癖の人がいるもんだ。勉強になった。

たしかに勉強になったが、いや、だから、そんな話を訊かされて私はどうしたらいいのだろうか。

ちなみに私は足の爪の匂いが好きだ。爪を切ったときなどは、ばっちいと思いながらもつい鼻のほうに持ってきて嗅いでしまうぐらいなのだが、こんな話は誰にもしたことはない。

なぜなら、そんな話を訊かされても「どうしたらいいのかよくわからない」と誰もが思うだろうからだ。